2008/7/22

酒井根下田の森緑地

連載43 学園のウチソト

フクロウが棲む森

 秋の酒井根下田の森緑地(廣池学園から南へ約700メートルの場所にある)

 「夕焼け小焼けの 赤とんぼ・・・」、「うさぎ追いし かの山 小鮒釣りし かの川・・・」、「めだかの学校は 川の中・・・」
  かつてこどもたちの遊び場は自然がいっぱいの野原であり小川であった。今はテレビゲームやディズニーランドがそれらにとってかわった。

 柏市が誕生した昭和29年の人口は4万余、現在は33万と8倍にも膨れ上がった。東京のベッドタウンとして、森や畑が次々と宅地に変わっていった。志賀直哉や武者小路実篤らが愛した手賀沼は、プールがなかった時代、柏市民の水泳場でもあった。だが、今手賀沼は汚染度ワースト一の悪名を全国に轟かせている。そして柏市内でホタルが鑑賞できる場所はもはや壊滅したかにみえた。

 だが、まだ僅かだが昔ながらの里山が残っていた。潤いとやすらぎを与える市街地の中の緑の自然拠点として平成11年にオープンした「酒井根下田の森緑地(酒井根六丁目)」がそれである。ここにはホタルだけでなく、サワガニ、カワセミ、フクロウなども生息する。

 フクロウは肉食の猛禽類である。生き物たちに君臨し、天敵がほとんどいない王者であるフクロウの数が年々減っていったのはなぜだろうか。原因の一つはえさ不足にある。食物連鎖にみる生態系ピラミッドの高次消費者であるフクロウを支えるためには多種多様な生物が生息できる、それなりの広さをもった畑地と森が必要なのだ。フクロウが生息するということは「酒井根下田の森緑地」がいかに貴重な自然を残しているかを雄弁に物語っている。

※余談 左右対称でないフクロウの耳
フクロウの耳は左右で大きさが違うだけでなく、位置も上下ノずれている。夜行性のフクロウが餌を探すとき、えものがたてた音が、僅かなずれをもって左右の耳に届くので、音のした方角や距離を測ることができる。

相続税=財産没収?

 日本では三代相続すると金持ちもただの人になってしまう。かつて大正製薬会長の上原昭二氏が335億円を相続したが、300億円の税金を払ったため、手元には30億円しか残らなかったという有名な話がある。現在相続税の最高税率は70%に下がったが、スイスは7%、ドイツは30%である。また、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのように相続税のない国もある。勿論、日本でも基礎控除額以下なら相続税はゼロなので庶民には縁のない話ともいえるが、一方で市街地の緑化を保持してくれている、ゆったりとした庭つきの住宅街が相続税のために細分化されていくとしたら寂しい話である。

 個人の財産が税によって再配分されることは必要なことではあるが、日本でもノーベル財団、カーネギ財団、ロックフェラー財団といった形で社会に還元されることがもっと盛んになってもよい。じつは「酒井根下田の森緑地」誕生の蔭には土地所有者の多大な理解と協力があったことを付記しておきたい。

下田は齋藤家の屋号

 「酒井根下田の森緑地」は齋藤吉弘氏が所有していた土地であり、「下田(しただ)」とはこの地域の昔の字名であるとともに、下田一帯の所有者である齋藤家の屋号でもある。因みに、通称下田の杜(酒井根六丁目・東山一丁目・光ケ丘三丁目にまたがる森と畑)にある齋藤氏の家の鬼瓦には「下田」という屋号が刻まれている。

 齋藤吉弘氏は昭和38年に本校を卒業された麗澤のOBである。父親の吉永氏は土村(現在の柏市)最後の村長を勤められた方で牧野富太郎博士の弟子の一人として植物学や郷土史に造詣の深い土地の名士であった。祖父の武衛氏は廣池学園が昭和10年に開設された時の地主の一人で大変敬神の念の篤い人格者であった。現在のれいたくキャンパスプラザ付近の土地は齋藤家の所有であったそうである。(とこしべ41号参照)

 千葉大学で植物遺伝学などを学んだ吉弘氏は日本自然保護協会のメンバーでもあり、かねてより柏の自然が失われていく姿に心を痛め、何とか自宅の屋敷だけでも里山として残したいと考え、30年間週末には樹木の剪定や下草刈りを自ら行ってきた。農薬を一切使わないため、ホタルが生息できる環境が保全されたのである。齋藤氏は私有地をボーイスカウトの野営場として提供したりもしている。近隣の西山、酒井根、東山地域の住民たちも、斎藤氏の所有する下田の杜を自分たちの庭のようになれ親しんできた。ところが平成六年になって宅地開発の勢いが齋藤氏の所有地に迫り、近隣住民が開発を何とかストップできないかと署名活動などを行なったが、既に市が平成3年に開発許可を出していたため、いかんともすることが出来なかった。そこで、せめて残った緑地を何とか残したいと、地域住民が地道に活動を続けてきた結果、三分の一ではあるが実をむすんだのが「酒井根下田の森緑地」なのである。

市民参加型の公園

 柏市内には「あけぼの山公園」や「県立柏の葉公園」など多数の公園がある。日本では江戸時代にも偕楽園、後楽園、六義園などの庭園があったが、これらは大名屋敷の一部であって、庶民が自由に利用できるものではなかった。近代になり都市化の進展とともに、ロンドンのハイドパーク、ニューヨークのセントラルパーク、東京の日比谷公園のような誰もが利用できる公園が造られるようになった。これらの公園は自治体が管理するのが一般的だが、「酒井根下田の森緑地」は市民参加型の公園で、里山協議会によって管理運営される。敷地内には他の公園と違って、ブランコや滑り台などの遊具はないが、一部はフクロウのすみかとして立入禁止としているもののトンボやカエルのいる湿地や池で生き物を観察したり、水田や畑で米作りや野菜作りの体験ができる従来にない新しい型の公園といえる。あなたも「酒井根下田の森緑地」で四季を通じて、自然を体験してみてはいかが。

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